コラムのページ
店主のこだわり



ジェントルコーヒー店主 亀井久貴
ジェントルコーヒー店主 亀井久貴
1962年製、京都産。コンパクトなボディーでよく働きます。1980年から12年間、京都・河原町のコーヒーショップ「インパルス」で珈琲修業。いい親方に恵まれて珈琲職人に開眼する。1992年に独立、5坪の小さな店で珈琲豆の店頭販売、卸売り、オフィスコーヒーサービスを始める。1996年に現在の場所に移転。従来の珈琲豆販売に加えて喫茶を営業する。
「お金儲けはヘタやけど、珈琲に対してはしっかりした主張と高い感性を持っています!」



 気にする質 
世の中、占いや縁起の良し悪しにジンクスなど、気にしだすとキリの無いものがたくさんある。 どれも何らかの統計や所以があって、心の不安定な時に支えにしたり、迷いを断ったりする人 も多いらしいね。
俺は別にそういう事を否定したり馬鹿にする気は毛頭無い。だってバチが当 たったら怖いもんな。
それに俺はけっこう縁起をかつぐたちだ。ただし人に気付かれないよう にね。かつぎすぎて腰が曲がる時もあるよ。
店を開店する日は大安の日を選んだし、雑誌をパラパラして占いコーナーがあると自分の欄を 読んでいるし、夜には爪を切らない。
まー日頃はその程度だけど、うまく行かない時が続くと恥ずかしい位、何らかのジンクスを考 えてしまう。「いい事があったあの日は花壇の植替えをした日だったなー。また花の植替えで もしてみようかなー。」とか「前もこのCDを聞いたあとに嫌な事があったよな。このCDは奥 に仕舞っておこう。」など根拠の無い事ばっかり考えてしまう。みんなはどうなんだろう?
たまに全く気にしないというヤツもいて(俺は内心、本当にそうかい?と思っているけど) 羨ましいなと思う気もする。
ニヒルにジンクスを押し殺す事はきっと俺には無理だけど、「ぜんぜん 気にしてましぇーん、っていうかーそこまで頭がまわらんかったのよん」には近づけそうな気 がする。こんどジンクスにはまったら、この路線で行ってみようかな。
でもやっぱり秋に財布は買わないだろうな。

(2006.5.7記)



 良薬、口に苦し? 
朝から、「クロロゲン酸を多く含んだ珈琲をください」と言うお客さんが続いた。 俺は??と思い、お客さんに話を聞くと、テレビ番組で珈琲に含まれているクロロゲン酸がダイエットに役立つと紹介されたらしい。うー、テレビの影響、恐るべし! 化学に疎い俺は、本を読んで珈琲の成分を豆知識として、頭の端っこに入れておいた程度で、その分野はよく分からん。
昔、珈琲は身体に悪いと言われていたが、最近はいろんな所から珈琲は身体に良いと言われるのは嬉しいことだな。曰く「脳を活性させ、血行を良くし、消化促進、脂肪燃焼の促進、その香りでアルファー波が誘発されリラックス効果がある」こう書くと本当に薬の効能書きやね。さらに珈琲のかすは脱臭効果がありゴミ箱に入れるとよい、また花壇にまけば雑草駆除の役にたつらしい。まーなんといい事尽くめやね。
「ただし酸化した古い珈琲は不可、鮮度の良い豆で点てたての珈琲を飲むべし。」 うん、ここは大事なことやね。やっぱり珈琲は嗜好品だし、おいしいって感じるのがまず一番だと思う。 珈琲屋の俺は薬剤師じゃないので「この珈琲、効いたよー」って言われるよりか「この珈琲、おいしかったよー」と言われるのが一番嬉しいな。
でも健康ブームがもっと白熱して、俺が医者の白衣着て仕事してたら笑うやろな。

(2005.11.28記)



 香りにときめき 
友達のかおりちゃんにときめいているのではなくて、今回のコラムは感じた香りで気分が良くなる話。
不思議な事に俺は年に二度、ある条件である香りをかぐと胸がドキドキしてしまう。一度目は五月の初旬、よく晴れた日にレモンの香りをかいだとき、二度目は十月の初旬、うす曇りの日にキンモクセイの香りをかいだとき。季節と天気が重ならなければドキドキしないが、条件が会えば必ずそうなる。
どんなドキドキかって言えば、今からすごく楽しい事があるようなゴキゲンで興奮した感じで、例えて言えば遠足の前夜状態かな。 今まで多くの人にこの話をしたが「実は俺もそうとか私もそう」と言った同胞は一人もいなかったね。ある友達は「記憶の残る前の赤ん坊の時に、その条件でよっぽど嬉しい事でもあったんじゃないか」と精神分析医みたいな事を言ったヤツがいたが、真相はわからない。 ただ俺としてはその条件が揃うことは大歓迎で、毎年楽しみにしているぐらいだ。 もうすぐ十月のキンモクセイの季節、きっといつもに増してゴキゲンな顔してるから店に来ておくれ。

えっ、お前は珈琲屋のくせに珈琲の香りでときめかないのかって?
確かに香り高い珈琲に心ときめきはするが、豆を挽くたびにドキドキしてたんじゃ仕事にならない。
それよりも「俺の作る珈琲でお客さんの心をときめかす」それがこの仕事の一番肝心な所やね。

(2005.9.19記)



 ツバメ 
毎年、春になると隣の本屋さんにツバメがやって来る。ツバメの来る所は繁栄すると言うが、どうして俺の所には来ないんだろう・・?
ツバメはやって来ると、まず最初は巣のリフォームから始まって、知らないうちに卵を産み、雛をかえしている。そしてせっせとエサを運んで雛を育てる。一日中働き詰め。でも文句をいっているのは聞いた事ないね。本当に感心なヤツだ。そして俺たちには挨拶なしで南の空に巣立って行く。一部始終を見ていると、自然の営みを感じる。自然体で生きていくと言うのはこの姿なんだろうと思う。ヤツらは自分の必要な生活スペースと必要なだけの食料で十分満足でとても質素、でも身なりは毎日、燕尾服を着てるけどね。
よく人から「自然体な生き方ですね」と言われる俺でもそこまで悟りきれない。 うまい物食べたいし、広い家にも住みたいし、いい車にも乗ってみたい。どうやらカラッポの頭の中は物欲がぎゅうぎゅうに詰まっているようだ。
でも、そんな俺が春から夏にかけて毎日ツバメを見ていると、こってりした野心もしだいに薄れ、好きな仕事で暮らしているありがたさを感じさせてくれる。俺もツバメのようになりたいな。 ツバメと言ってもどこかのマダムのツバメやないよ。誤解の無いように。

(2005.8.9記)



 屋号 
店名を付ける時、店主はそれなりに思い入れがあると思います。自分の名前を付ける人、地名や地域から名付ける人、イメージを名付ける人などいろいろです。当店ジェントルコーヒーは心優しい店主が、心癒すコーヒーを出す店というイメージを店名にしました。 イメージどうりになっているかは、お客さんの判断に任せます。
屋号をジェントルコーヒーと決めた時、まわりの人からは結構反対されました。 曰く、「分かりにくい、憶えにくい」という事でした。
そういえばうちの婆さんが、クリニックをクリーニングと間違えて洗濯物を出しに行った事があったっけ。20年程前はカイロプラティッククリニックって看板を見て何屋なんかな?とは思っていたけれど・・・。
そう思うとジェントルコーヒーはちゃんと「コーヒー」って書いてあるので何屋かはすぐに分かると安心して名前を付けたわけです。
ところが、店の買い物をして領収書を書いてもらう時、何故か年配の人は「ゼントルコーヒー」と書く人が多くて困りました。中には「ゼニトルコーヒー」って書いた人もいて、やっぱり分かりにくいのかと悩みましたが、名前を憶えてもらう事も大事ですが、名前に込めた思いを忘れずに仕事を続ける事の方が大切と思いました。 しかし「ゼニトルコーヒー」、「銭取るコーヒー」とはなー・・・そのほうが儲かったかな。

(2005.7.3.記)



 レストラン 
ある日、嫁さんが「おしゃれしてレストランで食事したい」と言い出した。まーなんとも、俺にとって縁遠い話を持出したもんだと思いつつ、どんな所がいいの?と聞いてみた。

嫁 「そうやねー、黒服を着た人が迎えてくれるような高級店でフルコース!」
俺 「うーん、黒い服か・・・、白い服着た人が迎えてくれる所やったら、いつでも連れて行ってあげるで」
嫁 「・・・それって、近所の定食屋のおっちゃんとこちゃうんか?」
俺 「するどい」
嫁 「アホな事言うてんと、フルコース食べに連れてってちゅうてんねん!」

てな訳で、嫁に脅され・・じゃなくてせがまれて行ってきました。ここは京都市内のとあるホテルです。この際ホテル内もうろうろしてみようと、早めに出掛けました。
まずは、珈琲屋の宿命でカフェに入ってコーヒーを飲む事になります。感想はさすがにホテルですね、丁寧な接客で気分はいいです、ただコーヒーは点ててからかなり時間の経ったコーヒーで残念でした。
その後、夕食まで時間があるのでコンシェルジュに近くの観光を尋ねてみました。(京都に住んでいても京都観光なんかした事ないので)今日の予定を話すと、とても丁寧にスケジュールに合う近くのお寺を紹介してくれました。
天気の良い午後、お寺を見学して手入れの行き届いた庭を眺めて、なんともまったりした気分にさせてもらいました。
さてレストランの予約の時間も近づきホテルに戻り、本日のメインイベントです。店に入ると確かに黒い服を着た人が席に案内してくれました。オーダーを済まして暫くすると、綺麗に盛り付けられた料理が運ばれてきました。嫁さんは、緊張している俺をほぐすためか天然なのか「なんか久しぶりにスカートはくと足元スースーするわー」などと訳のわからん事を言いながら、おいしそうに食事を進めます。日頃ハヤメシ、ハヤグ○の俺も今日はゆっくり落ち着いての食事です。さすがに一皿一皿、工夫された料理が続きました。
食事も終わりデザートとコーヒーを楽しみながらふと考えた事は、今日の俺はお金を払うお客さんの立場、それなりのマナーを心得ていれば妙に緊張せずに、食事と雰囲気そしてサービスを満喫すれば良いことやったんやな。それに俺もサービス業のはしくれ、表現の違いはあれど、作った物とサービスでお客さんに喜んでもらう。これは同じことなんや!
今日みたいな日もたまにはいいもんやなー、と考えていると。

嫁 「楽しかったわー、また連れて来てね」
俺 「おう、まかしときー」
嫁 「でも次はこぢんまりとした、割烹料理屋さんに行ってみたいねん」
俺 「かっかっかー、割烹料理・・!!」
嫁 「心配せんでもえーよ、今度は白い服着たおっちゃんが迎えてくれはるから」
俺 「怖いお方や・・」

(2005.5.29.記)



 コーヒーを好きになったのは・・・ 
小さいときから職人さんの仕事を見るのが好きでした。近くに建築中の家があれば大工さんや左官屋さんの仕事をじっと見ていました。買い物に連れられるとクリーニング店ではアイロン掛け、たまご屋さんではだし巻を巻いているのをじっと見ていて、家に帰ると見てきた「なになに屋さん」になりきってその真似事をして遊んでいました。
中学3年生の時、家の近くに珈琲専門店と言うのができて、誰かに連れて行ってもらう機会がありました。世界各国のコーヒー豆の並んだ棚、カウンターではバーテンさんが、サイホンでコーヒーをたてていました。それまでの喫茶店とは違う独特の雰囲気に魅力を感じ、にがいと思いつつも大人ぶってブラックでコーヒーを飲んだ思い出があります。
サイホンを使っているのが見たくて、その店に通い(中学生で常連さんとは、ちょっとおませですが)家でも美味しいコーヒーを淹れる事ができると教わり、ペーパードリップ一式とコーヒー豆を買って帰りました。
さっそく家でコーヒーをたてると、部屋中にコーヒーのいい香りがひろがり、見慣れた部屋がいつもと違って見える気がしました。コーヒーって素晴らしいなと思いました。その時は将来自分がコーヒー屋をするとは思いもよらず、今日見てきた「なになに屋さん」ごっこで遊んでいただけです。
この世界に入り25年。仕事で当たり前にしている作業を興味深く見つめる視線を感じる時、ぼくも一人前の珈琲職人になったのかなーと思います。

(2005.4.24.記)



トップページ | お店と地図 | 珈琲豆のご紹介
ご注文について | コラム | 至福の時 | リンク

Gentle Coffee
Copyright © 2005-2008 by Gentle Coffee. 
All Rights Reserved.